東京のレストランでは、もう物足りない——そんな予感がしたら

完成度の高いコース料理を食べ尽くし、話題の新店を制覇してきた。それでもどこか、胸の奥に小さな渇望が残る。その感覚は、あなただけではない。2026年、30〜40代の旅行好きな東京在住者の間で急速に広がっているのが「ローカルガストロノミー旅」——地方固有の風土・歴史・食材が一皿に凝縮された、体験型の日本美食旅だ。観光庁がガストロノミーツーリズム推進事業を全国25地域で展開し、訪日外国人の62.8%が旅の目的に「日本食」を挙げる今、世界の美食家たちが東京・大阪を素通りして地方の名店を目指している。春(3〜5月)は山菜・旬魚介・新緑が重なる、一年で最も食材が充実するシーズン。さあ、週末の新幹線に乗り込む理由が、またひとつ増えた。

ローカルガストロノミー旅とは何か

「ローカルガストロノミー」とは、単においしいものを食べに行く旅ではない。その土地の気候・地形・歴史・生産者が織り成す食の文化を、五感で丸ごと体験する旅のスタイルだ。ELLEグルメ2026年2月号では、美食評論家・中村孝則氏が「郷土前鮨」「CATCH&COOK」「離島レストラン」「薪火・熾火料理」を2026年の日本ガストロノミー4大トレンドとして提唱。いずれも共通するのは、「その場所でしか生まれ得ない一皿」という哲学だ。ディスティネーションレストランへわざわざ足を運ぶことそのものが旅の目的になる——そんな文化が、いよいよ日本の地方に根付きつつある。

富士山麓の「食猟師」が作る一皿——Restaurant SAI 燊(山梨)

東京近郊グルメ旅の最高峰として今最も注目を集めるのが、山梨県西湖のほとりに佇む「Restaurant SAI 燊(サイ)」だ。料理長の豊島雅也シェフは自ら「食猟師」として富士山麓の山に入り、ジビエ・山菜・キノコ・淡水魚を採取。それらを薪火・炭火で調理し、「奥・山梨料理」として昇華させる。なかでも、鹿の筋と麹で仕込む自家製発酵調味料「鹿醤」を使った料理は、この店でしか出会えない唯一無二の味わい。世界的美食ガイドにも掲載され、東京からの「日帰りガストロノミー旅」需要が急増している。ノンアルコールペアリングが対等に用意されている点も、多様な旅人に開かれた姿勢として評価が高い。新宿から河口湖駅まで約2時間、そこからタクシーで約20分。この距離が、非日常へのちょうどいい助走になる。

美食の島・佐渡で「郷土前鮨」と島テロワール料理を——新潟

2026年新潟ガストロノミーアワード飲食店部門グランプリを受賞した「登喜和鮨 新潟店」は、ELLEグルメが提唱する「郷土前鮨」を体現する存在だ。日本海の豊かな海産物と新潟米が融合した鮨は、その土地のテロワールを握りの形で表現する。東京駅から上越新幹線でわずか約2時間——離島グルメの前後に新潟市内で立ち寄りたい一軒だ。さらに足を延ばして佐渡島へ渡れば、同アワード受賞の「お料理 あなぐち」が待っている。明治時代の廻船問屋邸宅を再生した古民家空間で、佐渡牛・佐渡産鮑・真鴨などを本格フレンチのコースで堪能できる。美しい日本庭園を望みながら、島の旬を皿の上に見つける体験は、まさに離島グルメ旅の醍醐味そのものだ。新潟港からジェットフォイルで約40分、フェリーなら約2時間30分。島への渡航自体が旅情を高める。

アクセスと旅のヒント

Restaurant SAI 燊は東京から日帰り可能で、春の富士五湖ドライブと組み合わせるのがおすすめ。新潟・佐渡は1泊2日での旅程が理想的で、新幹線+フェリーの組み合わせが便利だ。佐渡島内はレンタカーを活用すれば「お料理 あなぐち」と「Origine(オリジヌ)」の両方を巡ることもできる。いずれの店も予約は早めに——特に週末の春シーズンは数週間前から席が埋まる。郷土料理体験を深めたいなら、宿泊込みで旅程を組むのが正解だ。

さあ、次の旅先はもう決まった

「わざわざ遠くまで食べに行く」——その一手間が、旅をほんものにする。春の新緑と旬の食材が重なる2026年のこの季節に、ローカルガストロノミー旅へ踏み出してみてほしい。東京を飛び出した先に、あなたがまだ知らない日本の味が、確かに待っている。